判例編4:占有と相続
正夫さんは太郎さんに家を貸していました。太郎さんは部屋の1つを茂蔵さんに貸して、賃料をもらっていました。太郎さんは亡くなり妻の花子さんがそのままその家に住んでいました。花子さんは茂蔵さんから賃料をもらいながら、自分も正夫さんに賃料を支払っていました。
あるとき花子さんは、善意無過失で10年間自ら占有したとして、その家は自分のものであると時効取得を主張したのです。
さて花子さんの占有と時効取得は認められるのでしょうか。
裁判所は、花子さんの占有を認めました。民法185条に「新たな権限により更に所有の意思を持って占有を始めた」に当たるとしました。「新たな権限」というのは今回でいう太郎さんの相続のことで、相続によりその相続人は占有を開始したと主張できる、ということになります。
ただし今回の場合、時効取得は認めませんでした。それは花子さんが正夫さんに賃料を払っていたからです。そりゃそうですよね、自分のものだったら賃料払う必要ありませんものね。
今回の判例は、相続人は相続により占有を開始することができる、という点がポイントになります。花子さんが賃料を払わず、正夫さんもそれを黙認して10年経過したのであれば時効取得で花子さんのものになる可能性もあったわけです。
ちなみに賃借権は相続できますので、花子さんは太郎さんの賃借権を相続しており、太郎さんが亡くなったからといって、正夫さんは花子さんを追い出すことは原則としてはできません。ですので、大家さんから借主が亡くなったから出て行けと言われても出る必要はありません。
山奥の管理しきれない土地などは、いつの間にか時効取得されているかもしれませんので、注意が必要ですね。賃貸借の契約当事者が亡くなったような場合にもご注意ください。
当事務所でも時効取得の裁判の相談がよくあります。不動産の管理はしっかりしておきたいものですね。もし、時効取得したい、時効取得されそう、という相談がありましたら遠慮なくお問合せください。
今回の参照判例:最3判昭和46年11月30日民集25巻8号1437項